「はぁ」とため息、曇る眼鏡、湿度上昇の兆し

「日本の若者の間では相変わらず恋愛至上主義がはびこっておりますなあ」とこたつでお茶を啜りながら、すでにその方面からは引退しかかっている僕は呟いた、Twitterで。恋愛相談というかなんというかをときどき受けることがあるけど、あれはとても困るもので、相手が真剣であればあるほど困る。なぜなら、相手の真剣さに応えようとこちらも真剣になり、真剣に熟慮したところで、「他人がとやかくいう問題じゃないと思うんだけど」「自分で考えなきゃ意味がないよ」「そうやって悩んでるうちが一番楽しいんだよねえ」などという結論にしか達することができないのが自明だからだ。それらの返答は、ほぼ確実に相手の求めているものではないため、誠実に伝えようとすれば被相談者の僕は破滅を免れない。相談者の今後を最大限に案じ、正直にそして簡潔にこちらの意向を伝えるのが相談者のためになるんだ、と思ったとしても、それを実行してしまえば即座に僕は不誠実な人間というレッテルを貼られ、凶悪犯に対する目つきで軽蔑、罵倒、そのうち周囲にも不穏な動きが現れはじめ、でたらめで不埒な噂がはびこったあげく、「コホン、ちょっといいかね」と上司に背後から汚いものに触れるかのようなフェザータッチで肩を撫でられというか叩かれ、追い出され、僕は生涯この門扉を潜ることはないのだろう、と振り返り述懐しながら夕日の射す坂道を下りそして転げ落ちる人生を一瞬妄想、いやいや、駄目だ、気を持ち直そう、と眼球のピント調節を久々に機能させたところ、母親に連れられて夕飯の買い出しに向かう子供の元気な姿が映り、ふふ、見てみろよ俺、俺にもあんな頃があったよなあ、微笑まし、おっと、奴がこっちを向いたぞ、首を傾け、そして、口を「あ」の形に、ん、3度微動させたあと、目を背けて前方を見、ってえ、え、背けた! 背けてる! 明らかに怯えてる! そんな子供の手を母親が掴み、引っぱり、すばやく遠ざかっていく! しかし赤信号は渡らない! なんという英才教育! 俺はハローワークへ向かう気力もなくなり、公園へ辿り着くとベンチに座り、鳩に持っていたチョココロネをちぎって与えはじめたが、お前らは気楽でいいよな、自らの歩行メカニズムになんらの関心を持つこともなく生きていける……などと考えはじめたらウッウッと喉に異変、かくしてひとり喉自慢大会、涙も流れたが水不足の解消には今ひとつ貢献はできないなとやけに冷静な自己の思考を鳥瞰しながら「はじめてのチュウ」を嗚咽混じりに歌っていると、それまでキャッキャウフフだった女子中学生が俺の前では黙り足早に通り過ぎ、その後明らかにそれまでと違ったトーンでキャッキャウフフゲラゲラ、ゲラゲラ、ゲラゲラってお前ら Get out! Get out! もう! こんなくだらないことを書いて大切な休日を過ごすなんて、一体全体なんて素敵な日曜日なんでしょう、とうそぶきながら勢いで推敲もせずにアップしてみるけどきっとあとで後悔する。いえ、後悔をしてみたい。これはそんな一冬の大冒険。